ステンレス鋼中心圧縮柱の曲げ座屈性状 最大耐力と座屈後の挙動
諏訪田 晴彦*1 福田 俊文*2 山内 泰之*3
建築研究資料 No.86, 1995, 建設省建築研究所
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<概要> |
ステンレス鋼の応力−ひずみ関係は、従来の鋼材(SS400など)と比較し、比例限度が低く、明瞭な降伏点および降伏棚が認められないいわゆる丸屋根(ラウンドハウス)型の曲線を描くなどの特徴を有する。中心圧縮材の座屈性状は、鋼素材の応力−ひずみ曲線の形状にも依存するので、設計用座屈曲線は、従来の鋼材のそれとは異なったものに設定すべきと考えられる。
本研究では、ステンレス鋼の中でも耐食性・加工性・溶接性に優れ、その降伏点(0.1%オフセット耐力値)が普通鋼SS400、SM490のそれと等価で、建築構造材としての有用性が高い材料であるということからSUS304およびSUS304N2を対象鋼種とし、断面形および製造方法が部材全体の曲げ座屈性状、最大耐力および座屈後の挙動に与える影響を中心圧縮柱の座屈実験により検討した。本研究により得られた知見は、以下の4点に要約される。
(1)ステンレス鋼中心圧縮柱の最大耐力には、部材を冷間成形することによって生
じる加工硬化(降伏応力の上昇)が大きな影響を及ぼす。このことは、冷間成形
材の細長比λ(L/i)が小さい試験体(歪が大きい領域で座屈する試験体)の最
大耐力が同一細長比を持つ圧延成形材および溶接組立材に比べ、著しく高い
ことからも明らかである。
(2)本実験より得られた全ての試験体の最大耐力は、Stub-columnTestの応力−ひ
ずみ関係から求めたTangentmodulus loadと良く一致した。
(3)ステンレス鋼素材の応力−ひずみ関係では、比例限度から降伏応力に至るま
での接線勾配の変化が普通鋼のそれに比べて大きい。これによりステンレス鋼
中心圧縮柱の最大耐力は、被弾性域において普通鋼に用いられるパラボラ式
を適用すると予測値が実験で得られた最大耐力を超えることがあり危険側とな
る。
(4)上記(3)のステンレス鋼の特性を考慮し、ステンレス鋼中心圧縮柱の設計用最
大耐力式として式5.3,5.14(本文参照)を提案した。
*1 第三研究部 耐風研究室研究補助員
*2 第四研究部 実大構造物実験室長
*3 第三研究部長
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