区画火災の数学モデルとフラッシュオーバーの物理的機構
長谷見雄二
建築研究報告 No.111, 1986, 建設省建築研究所
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<概要> |
本研究は,一般に「フラッシュオーバー」と称される区画火災の温度急変現象を数量的に特徴づける一つの方法を提示して,フラッシュオーバー発生限界など,この現象に関係する防火安全性指標を計算する方法を誘導し,その成果を,区画火災のゾーン・モデルに適用した例を示すとともに,この理論の前提となっている仮定条件について,模型実験を行って,妥当性を検証したものである。
本報告では,まず,フラッシュオーバー現象の防火安全上の重要性と,この現象に関する既往の研究について要約した後,火災実験などで観察される火災空間の温度上昇過程の特質にもとづいて,この現象を数量的に特徴づける基準を提案している。この基準は,「火災空間における熱的不安定性の出現」によってフラッシュオーバーの発生を定義するもので,この定義によると,一般にフラッシュオーバーと称される特異な温度上昇過程を合理的に表現できることを示している。また,このような基準にもとづいて,区画火災のゾーン・モデルを使って,フラッシュオーバーの発生の有無を判別する方法,フラッシュオーバーが起こる際の火災空間の熱的状態を推定する方法などを,理論的に誘導している。これらの方法は,火災の数学モデルを構成する常微分方程式系の安定性と非線型最適化の理論にもとづいており,単純な火災モデルに適用して,その妥当性を検証した。
ここで展開したフラッシュオーバー現象の理論には,区画燃焼性状の非線型性など,幾つかの仮定条件を前提としているが,これらの仮定条件の妥当性については,メタノールを燃料とする模型実験で,検証を行っている。また,区画火災の数値実験や模型実験によると,フラッシュオーバーを引き起こす機構に種々のものがあると予想されるが,本報告では,フラッシュオーバーの数理的基準がどのような場合に満足されるかを詳細に調べて,フラッシュオーバーを引き起こす機構・過程を判別する方法を誘導している。この方法をよく知られている種々の伝熱・発熱過程に適用することにより,古くから指摘されている可燃性ガスの蓄積による着火の他に,燃焼発熱と燃焼物への放射フィードバックの相互作用による場合などについて,フラッシュオーバーの発生を促進する条件を明らかにしている。
なお,区画火災の成長を記述する数学モデルの構成はますます複雑化する傾向にあり,その扱いには数値計算が必要である。このことを考慮して,本報告では,数値的最適化計算法によって,任意の火災モデルからフラッシュオーバーに関する評価指標を計算する手法も誘導している。
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