家賃から見た民営借家市場の地域特性
石坂公一
建築研究報告 No.125 March 1990 建設省建築研究所
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<概要> |
地域ごとの民営借家市場の構造を的確に把握することは、地域における賃貸住宅供給事業の展開を図る上で重要な課題であるが、現状では、各方面において研究が進みつつあるものの未だ不明な点が多いのが実情である。本研究は、民営借家の家賃を手がかりとして、各地域の民営借家市場の実態を分析し、民営借家市場の地域特性を把握することを目的として、昭和58年の住宅統計調査のデータを用いて統計的な検討を行ったものである。
本研究の結果はおおむね以下のようにまとめられる。
1.民営借家市場の概況
1)最近の5年間に新たに民営借家に入居した世帯の全体を「フローの民営借家市場」と 呼ぶことにすると、その規模は、東京が群を抜いて大きく、神奈川、大阪は東京の半分であり、量的には大都市圏の比重が圧倒的に大きい。また、昭和54年以降建築の「新築」住宅が民営借家市場のなかで占める割合は、おおむね20%であり、フローの市場の大半は「旧築」住宅によって荷なわれている。
2)「新築」住宅の単身世帯率は、大都市圏の地域では低く、大都市圏以外の地域では高い。また、「新築」住宅の2人世帯の割合は、各地域において全世帯平均より高く、しかも若い世帯の入居が多くなっており、「結婚」に当たっては「新築」住宅が選好される傾向があるようである。
3)入居世帯の年令別構成比は、各世帯人員の世帯ともマクロに見るとおおむね安定している。
2.民営借家入居世帯の世帯特性
民営借家入居世帯の世帯区分別の特性は「収入」分布の場合に最も典型的にあらわれて おり、「家賃」「畳数」「家賃負担率」等の分布は、「収入」分布の特性を反映した形の ものとなっている。
ライフサイクル的に見ると、若年単身世帯の場合には、「収入」の水準は低く、世帯間の収入較差も少ないが、年令階層が上昇して青年世帯になるにつれ、収入の水準は上昇するとともに、世帯間の収入較差も次第に増大する。さらに、年令階層が上昇して中年世帯になると、収入の水準の上昇は止まり、世帯間の収入較差のみが増大し、高齢世帯になると収入較差は増大したまま、収入の水準は低下し、若年世帯を下回るにいたる。
このような「収入」分布の変化にともない、「家賃」「畳数」等の分布の構造も変化し、年令階層が上昇するにつれて、次第に「収入」に見合った住宅に住むという形での「住み分け」が進行していく。
3.民営借家入居世帯の行動特性
民営借家の「畳数」と「家賃」の関係は、その大部分が「物としての住宅の特性」によって規定されており、入居者の「収入」レベルの差異によるものは少ない。
一般に、「新築住宅入居」世帯の方が「旧築住宅入居世帯」よりも、「収入」と「家賃」の関係は強く、「家賃」支出の中では、「立地・設備要因」を重視する傾向がある。また、2人以上の世帯では、ライフステージの進展により、次第に「規模要因」が重視されるようになる。1人、2人世帯は、「立地・設備」を犠牲にしてまで、より「規模」の大きい住宅を選択するという行動はとらないが、3人以上の世帯では、より多人数の世帯になるにつれて、「立地・設備」をある程度犠牲にしても、より「規模」の大きい住宅を選択するようになってくる。
4.民営借家市場の地域特性
2人以上の世帯に関しては、本研究で対象とした22の都府県は、I.東京、II.神奈川、III.千葉・埼玉・京都・大阪・兵庫、IV.福岡・宮城・広島・北海道・奈良、V.岐阜・滋賀・香川・熊本・石川・茨城・山口・和歌山・宮崎・鹿児島の5つのグループに大別される。このグループは、Iの「東京」、IIの「神奈川」を別にすれば、概念的にはIIIは「首都圏の周辺地域と近畿圏の中心地域」、IVは「近畿圏の周辺地域と地方中核都市をかかえる地域」、Vは「その他の地方圏の地域」に対応していると考えることができる。
また、2人以上の世帯については、世帯は「最低規模水準」の確保を主目的とした住宅選択行動をとる結果、大都市圏の地域ほど、「収入」と「家賃」の関係は強くなり、「家賃負担率」は各世帯区分とも一定の水準に収斂する傾向があるのに対し、大都市圏以外の地域では、「住宅規模」にある程度の余裕があるために、「収入」と「家賃」の関係は弱く、「家賃」は地域別にある一定の水準に近づき、「収入」の差はそのまま「家賃負担率」の差としてあらわれるという傾向があると言える。
これに対して、1人世帯の場合には、「住宅規模」に対する要求が、2人以上の世帯の場合ほど強くないため、大都市圏における「畳あたり家賃」の高さに対しては、「畳数」のきりつめによって対応し、「収入」と「家賃」もしくは「収入」と「家賃負担率」の間の関係は、各地域ともあまり大きな差はない。いわば、1人世帯の場合には、「家賃負担」に関しては地域差はあまりないということが特徴である。
一般的に、地域的には大都市圏の地域ほど、また年令的には年令階層が高くなるほど、「収入」に見合った「家賃」を支出し、それに見合った規模の住宅に住むという「収入」階層による民営借家の「住み分け」の傾向が強まると言える。
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