住宅生産技術の発展と注文住宅生産様式の変貌
−従来木造軸組工法を中心として−
森本信明 松島みち子
建築研究報告 No.130, 1991 建設省建築研究所
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<概要> |
本研究報告は近年在来木造住宅の分野においても、生産規模の大きなものが出現しているという点に着目し、その生産規模が拡大してきた背景には住宅生産技術の発展があったことを明らかにするとともに、在来木造軸組工法の分野における今後の大工技能の変化や生産様式の将来についての見通しを論じたものである。
ここで技術は労働手段の体系であるという説を採用し、それをもとにまず第I編では技術発展と技能あるいは住宅材料の変化の関連についてのアウトラインを示した。それにしたがって、(1)製材技術の発展と大工技能の変化、(2)電動工具の普及と大工技能の変化、(3)プレカット技術の発展と技能者要請の問題についてというように、歴史的な発展段階に対応させて発展過程を論じている。本編の結論では、近年急速に普及しているプレカット機械による部材生産が、従来の大工技能とは異なった技能者を必要としていることを示している。即ち、電動工具が大工技能を変えてきたこととは比べようもないほどの大きな影響をもたらすことが予測されるのである。なお同時に従来の大工技能が存続しうる条件についても検討を加えた。
第II編においては、その冒頭の章で在来木造住宅は注文需要に対応して従来は小規模生産を特徴としていたが、技術変化の中で、中・大規模な生産組織が出現しうることを示した。その具体的な特徴をみるため、全国的な統計データを用いた分析を以下に続く2つの章で行った。ここでの知見は、(1)在来木造住宅生産の分野において生産規模が大きくなると、そこで利用される材料も、より大量に入手が可能であり、より施工が容易なものへと向かっていること、(2)地域性や都市化による住宅の違いと言われたものの中には、生産規模の差異によって説明できるものが多くあること等である。最後の章においては、これらの検討結果をふまえて、在来木造住宅生産分野における小規模生産組織の将来についての検討結果を整理している。
第I編・第II編から得られた知見は、今後の住宅生産組織や技能者養成についての公的支援方策を具体化するうえで、大いに役立つものと考えられる。
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